「それにしても……僕と同じ業者の方が来られているとは思いませんでした」
手にしたレポートに専門的な数値を記入しながら、折笠はぽつりと口を開く。
検査を地下から始め順調に進めてきた泉と折笠は、今研究所の半ばの階に上がって来たところだ。
「私もそれは思ったわ折笠さん、二つの業者に検査頼むなんて変わってるもの」
言って泉は眼鏡の奥で苦笑する。
「よっぽど事細かに調査して欲しいのかしらね」
泉がここに派遣されたのは今回が初だが、泉の勤める建築調査部がこの研究所のお抱えだとは聞いている。
なのに、そこにもう一人……
「ねぇ折笠さんって若そうだけど、いくつなの?」
泉は興味あり気に問い掛けた。
「……佐倉さんよりは年上だと思います」
さらりと目線を投げられる。
「人が言うには僕は、顔が幼いらしいんですが…」
「そ、そうなの…ごめんなさい、私タメ口きいて」
「いえ、そういうのは気にしない方なので」
相変わらず無表情の対応で返ってくる。
だが彼にしてみればどうやらこの態度が普通らしい。
(営業に向かなそう……)
泉が愛想笑いで切り抜けた時、
「おい、何してんだ?」
低めの男の声が掛けられた。
二人して顔を上げると、そこには何やら資料片手の研究所員がこちらを見ている。
部外者を見る訝し気な目付きに気付き、泉は咄嗟に笑顔を作った。
「失礼しています、私は……」
「建築調査の者です」
すっと折笠が手前に出る。
所員の男の背が高かったので見上げる形になった。
「おまえ……」
男……管原は折笠に対し首を傾げる。
「建築調査だ?」
折笠が名刺を出したので管原は素直に受け取った。
「……あぁ、アンタの会社か!聞いてる聞いてる」
そして理解したのか面立ちが軽くなった。
「悪いな、ちょっと立て込んでて顔合わせられなかったわ」
「いえ」
「で?そっちの美人さんはアンタの助手かな?」
泉は口元で笑った管原と目が合った。