――これは
夢だ。
瓦礫の中。
そこにだらしなく倒れている、人。
自分はそれを見下ろしながら、酷く疲れている。
そう、確か“疲れていた”。
これは過去の事。
感覚はもう、あまり覚えていない。
けどその場面は覚えている。
覚えていなくてはならない。
自分が何をやったのか。
例え不可抗力な事だったとしても、それはやってはいけない事。
だから忘れない。
償いとして。
「た、た、助けてくれ!」
――ある診療所。
転がり込んで来た民間人は、全身に暴行を受けていた。
「どうしました?」
また派手な喧嘩でもしたのだろうか、と診療所の医師は思ったが、見ると男の様子が明らかにおかしい。
「先生!白い奴が……化け物みたいな奴が!!連れもやられた!!助けてくれ!!」
それが、第一の犯行。
白の怪物がスラムに浸透した事件の始まり。
初犯からとめどなく繰り返される白い怪物の暴行は、既に被害者も六人を越えた。
中年、老人、子供。
年齢も性別も無差別だった。
しかしどうやら怪物は民間人が一人ないし二人の所を狙うらしく、それが分かると住人はこぞって徒党を組み出した。
が。
「…被害が止まらない……」
診療所の医者は項垂れる。
何故?何故人は、一人では危ないと言われてもどこか、「自分は大丈夫だろう」という悠長な思いがあるのか。
既に深夜に二人狙われ、被害者は八人。
「何処に潜んでいるんだ?」
「なんでこんな酷い事を…」
「精神異常者らしいぜ」
「研究所の奴らに頼んで、外から警察呼ぶとかさぁ……」