それは気配なく。
突然に。
そんな登場だった。
「さっ咲…ッ!?」
口を衝いたのはどちらの声だったか。
もう一人の侵入者は部屋の扉に身を預け、つまらなそうな顔をして立っていた。
そして
「茉梨亜……こども、おめでとう」
笑、う。
その少年の存在は懐かしく、そして表情は酷く恐ろしく感じた。
微笑んでいるそれは、しかし裏に侮蔑を含んでいる様な……
「――!!」
茉梨亜の背筋はそれで凍る。
――悪寒。
「こ、ども…?」
一歩後退った茉梨亜の耳に、座り込む少年の呟きが入った。
「茉梨亜…おまえ、それって……」
見上げられた視線は酷く困惑したもので。
「あ、拜…ち、違……」
茉梨亜は頭の中の矛盾をただ口から流す事しか出来なかった。
「な、何を……」
言っているの、と。
茉梨亜の目線は咲眞へ。
しかし足元の少年は理解した様に言い切る。
「黒川とのこども、か…」
――コツ、と。
咲眞は先程の笑顔はどこへやら、無表情で歩み寄る。
「こども……」
次に言葉を発したのは紀一だった。
「茉梨亜と、父さんにこどもが…?」
ゆっくり目を見開いて茉梨亜を覗き込む。
その口の端はゆるりと上がり。
「茉梨亜……本当かい?」
「な…ち…っ」
怯える様にかぶりを振った茉梨亜だったが、紀一に両肩を掴まれた。
「嗚呼!これで本当に俺達は親子だ!茉梨亜!!」
そう歓喜し、強く抱きしめられる。
「そ、そんな……」
意味が分からないと茉梨亜は驚愕を表したが、しかし前を見ても後ろを見ても、
「……ぁ」
救いの顔は無かった。
咲眞は非難の様な目を向けているし、拜早は眉を顰めたまま。
「ま…待って…! 私……そんな」
「黒川が言ってた」
「なら決定だ…!」
更に歩みを進める咲眞へ振り返り、紀一は狂喜の笑みを浮かべる。
「これで分かったろう!!茉梨亜はこの屋敷で暮らすんだ!ずっと俺の傍で!!!」