「……」
廊下に出て頭を上げると、そこにはあの、顔。
「あらァ!侵入者ってアンタなの?!」
長身の女が立っていた。
肩口で切り揃えたストレートの紫の髪。
黒川邸精鋭隊長、峯だ。
「…ッ」
拜早は舌打ちをする。
…出来るなら相手をしたくなかった。
「一体何しに来たのよ、もう一度捕まりに?でもアンタ、もう使いモノにならないじゃなぁい」
…峯は強い。
普段は蓋尻の下で雑用紛いな事をさせられているが、かつてはスラムで幅を効かせていた事もあるという。
連れて来られたあの時、黒服相手に刃向かっていた拜早や咲眞、茉梨亜も、峯と高城にはしてやられた。
「……」
拜早は峯を正面から睨み、黙っている。
「…その様子じゃあ、蓋尻は片付けちゃったようねぇ。アハハ!あのコブタざまぁないわ!!」
いつも峯にくっついている高城の姿が見えない。
先程の蓋尻との会話から考えれば……
拜早は薄く口を開く。
「高城は…?」
「あぁアイツはねぇ、今茉梨亜を紀一様の所に…」
言って、峯は笑っていた顔をそのままにピンとくる。
「…アンタ、茉梨亜を連れ戻しに来たのね」
口の端を上げ、峯は拜早を見据えた。
――茉梨亜の居場所…
黒川紀一の部屋で、決まりだ。
「てかなんで髪の毛白いのよ、実験で色抜けたの?こわぁい」
「紫のあんたの方がよっぽどこえーよ…」
睨み合い。
「……まぁなんだっていいわ、アンタが侵入者だってなら、やるしかないわねぇ」
峯が軽く指を鳴らすと、どこから現れたのか一斉にサングラスをかけた黒服が立ちはだかる。
「…ちっ!」
拜早は峯の方向から踵を返し、床を勢いよく蹴って駆け出した。
「逃がさないよ!!」
峯の号令に黒服達は一気に追い掛けてくる。
この人数はやばい。
廊下にも余裕はないし、あまり上手く立ち回れないだろう。
…それは向こうも同じか?
兎に角茉梨亜の居場所が分かった今、無駄に敵とやり合うよりやり過ごすのが一番だ。