茉梨亜が診療所を出ると、辺りは薄闇に包まれていた。

「ぅえっ!?もしかしてこれ朝焼け!?あたし寝過ぎー!」

すっかり雨は上がり、あの土砂降りの形跡も既に乾き始めたコンクリートによって無くなろうとしている。

道に出来ている水溜まりを軽々と跳び越しながら、茉梨亜は自宅へと向かう事にした。



茉梨亜の自宅も診療所と同じBブロック。
見慣れた風景を思い出し、茉梨亜は少し安堵した。

「ふぅ。あたしってば診療所にお世話になった事なんてなかったからなぁ…それにしてもあんな変な医者が担当してたなんてねっ」

思わず独り言を口に出す。

「でも医者って事はあの人も研究所の人間なのよねー。研究者ってもっと陰気クサいのかと思ってたけど」

研究所とはこのスラムの中心に建てられた巨大な建物で、中では医学的な研究が行われているらしい……

といっても研究所とスラムの住人に何かしらのコンタクトや干渉があるわけではない。(と研究所は主張をしている)
ただ研究所で医師免許を持つ研究員が、スラムのブロック各地で診療所を開き民間人を診てくれるという国からの配慮もある。

「ま、人って見かけや態度で能力は分からないものよね!肩もすっかり調子いいし…」

茉梨亜は管原に治療して貰った左肩を見やった。

「…ん?」

そしてふと気付く。


「待って…これ、服脱がないと肩に包帯巻けないわよね……」

破れた服の肩口から、綺麗に巻かれた包帯が顔を覗かせている。


「と、いう事は…………」


茉梨亜は結論に達し、フツフツと恥となんとも言えない怒りが燃え上がって来た。
確かに治療して貰ったのは有り難いのだが、しかし!

「あたしあの弾くんに裸見られたぁぁ!!!」


理不尽な話だがこの恥じらいの矛先振り払う様に、茉梨亜は勢いよく走り出す。

そうこうしているうちに、辺りは朝日の光に照らされ始めていた。