「あーあ、結局イィ男どころか誰ひとり引っ掛からなかったじゃないの！」
「もー、峯ってば変だヨ？なンで男がいぃのサー」

スラム街路地。
黒川邸に向かいながら、男女がそんな会話をしている。

黒川邸の幹部、峯と高城だ。

「だって峯っテほんとは…」
「うっさいお黙り！！アタシがどうしようがあんたに関係なぃでしょ！！」

内容の掴めない言い合いをしながら、どうやらなんの収穫も無く帰路に着いている様だ。

峯はその仕草が癖なのか、紫の髪を掻き上げながら口を開く。

「そーいえば今日は新しい娘(こ)が来るって言ってたわよね…これで黒川様も茉梨亜から乗り換えてくれたら、蓋尻の機嫌も納まるのかしら」
「蓋尻サン、この頃怖ィもんネ」
峯の発言に、高城も突き出た腹を掻きながら同意した。
「…マァ峯も怖ィんだケどネ」
「高城何か今聞こえたけどぉ？」


そうこうしているうちに、黒川邸の裏口はもう目の前。

「あっ黒川邸の方ですよね」

屋敷に入ろうとしたところ、ふいに後方から声が掛かった。

「？」

「宅配便です」

二人が振り返るとそこには帽子を目深に被り専用の衣服に身を包んだ宅配業者の人間が…
台車に大きな段ボールを一つ乗せている。

「宅配？珍しいわね…誰からよ」

峯は不審な思いを隠さず眉を顰めた。

「研究所の方からです…宜しければサインを…」

言って、宅配業者は領収書とボールペンを差し出す。
仕方ないわね、と峯と高城は一度顔を見合わせながら峯がサインをした。

「はい、どうぞ！」
「お手数かけます。それで…この荷物、場所指定がしてありまして」

「場所シテイ？」

「はぁ、えぇーっと」

業者はそのまま峯に領収書だけ渡し、自分は控を確認する。

「警備室Ａ…ですね」

そこは屋敷の全監視カメラをモニタリング出来る部屋だ。
黒川が雇った警備員が２４時間体制で見張っている。

「ふーん、分かったわ、そこに入れるよう伝えとく」

「お願いします」

「ご苦労サマ」

業者は荷物を重そうに台車から下ろすと帽子を取りながら一礼し、去っていった。