目の前にいる、一匹の黒猫。
すくっ、と立つ姿は――まるで、

王子様。



「助けてくれたの?」


つやのある真っ黒の毛を撫でながら、聞く。

「にゃあ」


足元にすりよってくる、黒猫。

『そうだよ』、とか言ってくれたのかな。

わたしの声、聞いてくれたんだ、きっと。



「ありがとう」

両手で、胸に、抱き寄せる。


くすぐったいけど、あったかい。

小さい猫に、宿ってる命を感じる。


「にゃっ」



わたしは、胸から猫を降ろした。

こんなに綺麗な黒猫。きっと、帰る家があるんだろう。


「またね」