中に人はいない。至ってシンプルな部屋だった。

小さな部屋に、木々が見える窓。そして、ひとつの絵が飾られていた。

この絵の風景、見たことがある。
どこだっただろうか。
小さくなってドアを抜けてこの世界に来てからを振り返ってみるものの、特にそれらしい場所はなかった気がする。

じゃあ、ドアを開ける前に見た風景だろうか。

ドアを開ける前?

ここでようやく異変に気付いた。

この世界に来る以前の記憶がない。

元の世界に帰りたいとずっと思ってたはず。でも、元の世界って?
記憶喪失?まさか、頭を打ったりなどしていない。

いつからその記憶が消えたのか、もちろんそれもわからない。

でも、思い出さないといけないことのような気がする。なんとか思い出す方法は…。

私は何か手がかりはないかと、絵をよく見てみた。

その時だった。まるで思い出すことを拒絶するかのような頭痛が襲う。
何か思い出したくないことでもあったのだろうか。いや、それなら必死に戻りたいとは思わなかったはず。

私は無理やりにでも思い出そうと頑張ったが、頭痛は収まるどころかだんだんと強くなっていき、やがて意識は遠のいていった。