「料理長!裏口を塞げ!逃がすな!」

そう兵士のひとりが叫んだ。逃げ場がなくなる。これは非常にマズい。すると、ぴたっとみづきの動きが止まった。

「…ねぇ、この甘い匂いって何?」

急に厳しい表情を見せるみづき。その急変ぶりに兵士達もたじろいでいる。

「甘い匂い…?」

「なんか匂うか?」

「いや、別に…。」

兵士達がざわめく。私にも、特に甘い匂いとやらは感じとれなかった。
そんな中、一人の兵士がぼそっとつぶやいた。

「そういや庭で花の蜜採ってるみたいだけど、まさか、それ…?」

その瞬間にみづきの目があからさまに輝いた。

「蜜!蜜ねー。紅茶に入れるといいよねー。どこでやってんの?あっち?あっち?」

と、質問してるわりには答える暇もなく、兵士達の間をすり抜けて外へと飛び出した。

「あ!その料理、置いてけって!」

「いや、それよりもあいつを捕まえろ!」

みづきに続いてドヤドヤと厨房を出る兵士と料理長。
そしてなぜか一人取り残された私。

とりあえず兵士達を撒くことが出来たのでチャンスではあるものの…このままみづきを放っておいて良いのだろうか。