どんな危険があるかもしれない。普段なら容易に考えられたことなのだが、朝から飲まず食わずで何時間も歩き通しのため、食欲でそんな冷静な判断を鈍らせた。
何より、見た目や香りから怪しい雰囲気は微塵も感じさせず、私はとうとうタルトにかぶりついてしまった。

「…おいしい!」

香ばしい香りに滑らかな舌触り。その美味さから、大ぶりの物でもなかったこともあり一気にたいらげてしまった。
食べ終えた後に、また体が伸び縮みするんじゃ…とはっとしたが、特に体に変化もなく、毒でもないようだ。

一体なぜ私にこれをくれたのだろうか。いくら考えてみてもわからない。だが、考えてもわからないのがこの世界の“普通”だ。
食べ終わった箱をどうしようか悩んだが、ここに置きっ放しにするのも気が引けるので、小さくたたんで通学カバンに入れて、改めて城へと歩き始めた。

そして、ようやく念願のお城に辿り着くことが出来たのだった。
が、人が見当たらない。
遠くの門にすら門番がいるのだ。お城の門にも門番がいておかしくないだろうが、それも見当たらない。