私は冷静だった。

実に冷静だった。

この旅路の中で、
最も胸が苦しくなるであろうこのシーンを過ぎれば
あとは目的を果たすための長い散歩に過ぎない。

「レイねーちゃん!やっぱりここにいたんだ!」

探したんだよと、頬を膨らまし私に近づく弟分を見やる。

「ヌイなら解るだろうと思ったのよ。」

それを聞いて満足したヌイは私の隣に座る。

「レイねーちゃん…本当に行っちゃうんだね。しかもギッシュと!」

「まだギッシュを怒っているの?剣の稽古つけてくれたんだから、一言いっておきなさい。」

「分かってるよ…」

途端に静まり返る。
波の音だけが私達の別れを嘆いているようだった。

「レイねーちゃん。」

そう呟いて、ヌイは小さな石を私に差し出した。
それはヌイが亡き母の形見と言っていつも持っていた石だ。

「母さんが、レイねーちゃんを守りたいって!」

「駄目よ。それはママの形見でしょ?ヌイが大切に持っていなさい。私は大丈夫…」

言い終わらないうちに、ヌイは石を私に渡して駆け出した。


「帰ってきて…帰ってきてその時までに彼氏が居なかったら、オレが結婚してやるから!じゃあな!」


まったく。
子供は無邪気でいいもんだ。