だが、この日は一つだけいつもと違うことがあった。

『こんなとこでなにしてんだ、ガキンチョ。』

レイと二人きりになれる唯一の場所に、小さな邪魔者がいたのだ。

『この子はヌイよ。村はずれのレーラおばさんの息子よ。レーラおばさんがルブラに買い物に行くから見といてほしいって頼まれたのよ。』

ギッシュに怯え、隠れるヌイに変わってレイが説明する。
ふーんと、実に興味なさげに返すギッシュを見てレイがため息をついた。

『ギッシュ、今日は貴方がヌイに稽古をつけてあげて。私も今日はクオーナさんに頼まれ事があって忙しいの。頼んだわよ。』

『あっ、おい!レイ!!…行っちまった。チッ』

声をかけるまもなく、レイは去ってしまった。
残されたのはギッシュとヌイだ。
脅えたようにギッシュを見つめるヌイにため息をつく。

『はぁ…。何だガキンチョ。俺に剣を教えて欲しいのか?』

しゃがんでヌイの目線に合わせる。
見方がいなくなって心細いのか、そんなギッシュに益々脅えてしまう。

『なんだ?男のくせに意気地のないやつだな!そんなんじゃ教えてやらねーぞ?』

元気づけるために言ったつもりが、更に小さくなってしまうヌイを見て、さすがにギッシュもマズったと気づいた。

『と、とにかく、ほら、剣をもってみろ!教えてやるから!!』

そう言って短い棒っきれをヌイに手渡す。

ヌイもオドオドしながらも構えて、修行が始まった。