『名を名乗れ。どこから着た。何のためにクオーナへ入った。』

厳しく尋問するその姿は、もはや少年というより青年だ。
それでも応えない謎の侵入者に痺れを切らしたのか、彼はレイのローブを荒々しく掴んで顔を見た。







汗ばんだ白い肌
ほんのり紅い頬
薄ピンクの小さな唇
高すぎない鼻
意志の強そうな大きな瞳
そして美しい絹のような金髪



『…!?』

ギッシュは混乱した。
混乱せずにどうしたら良いのか解らない。
早まる心音。
顔が熱くなって…
剣を握る手が汗ばんできた。
こんなこと初めてだ。
一体自分はどうしたのだろう。
侵入者はこのまま首を切るか、縛り付けてクオーナさんに渡さねばならない。

解っている…
解っている!
だが誰ができるだろうか?
可憐な花のような彼女を縛り付けたり、ましてや首を切るなど
できるわけがない!!



気付いたら握っていた剣を放り出して、荒々しく掴んでしまったローブを離していた。

『俺はギッシュ。ギッシュ・クオーナだ。お前…名を何という?』

レイは突然優しくなったギッシュに戸惑ったものの、これはチャンスだと思った。

『レイ…』

波の音でかき消されるような小さな声。
だがギッシュにはしっかりと届いた。
高い甘い声。
まるで天使だ。

『私はレイ。ルフェンダを旅していたら、両親を魔王にさらわれてしまった。このクオーナは勇者様が旅立つ地と聞いてやってきた。』

キッとこちらを見つめるレイの瞳と目があってしまった。

『私は魔王の元へ行きたい。どんな修行にも耐え抜く。だから…私を勇者の共にしてほしい!』



頼む…と言って泣きつかれては、ギッシュはその願いを聞かないわけにはいかない。
彼は剣を鞘に戻し、レイを抱き上げ、クオーナ村へと入っていったのだった。