―…10年前


『ハァッハァッ…』


少女は夜の森の中を走っていた。
真夏だというのに頭から白いローブをかぶっていて、その表情を伺うことは出来ない。

この少女こそ、レイである。

レイは時折、木の根に躓きながらもただ前を見て走りつづけた。
やがて森の終わりが見え、その先に海が見えた。


『ハァッ…海…』

レイはそこでようやく止まり、膝をついて体を休めていた。



『何者だ?』

声変わり途中のかすれた声とともに、首もとに冷たい何かが当てられているのが解った。

『ここはクオーナ村の中だ。許可なく余所者が立ち入って良い場所ではない。』



チラリ。
顔が見えないように一瞬だけ声のする方を見やる。

年はレイより2つ3つ上だろうか。
まだ幼い顔立ちだが、身体が大きく、筋肉のついたその黒髪の少年は、なかなかの腕の持ち主であるらしかった。
大の男でもなかなか振り回せないような大剣を片手で軽々と持ち、絶妙な角度と距離でレイをねらっているのだ。