「もう千郷、庭にこんなもの置きっぱなしにしないでちょうだい」

 どうして持ってくるのよ!?

「ママ、もうパート終わったの?」

「今日は一年に一度のお祭りだからね」

「そ、そうだね」

「ママは役員会があるから先行くわね」

「あ、うん」

また、私の所に戻ってきた黒い箱。

 私、逃げる事は出来ないの!?


『お気に召さなかったかしら?
 よく似合うと思うわよ』

声が聴こえたと同時に、真っ暗な部屋に変わった。

『貴女に自由はもうないわ。
 浴衣を着てお祭りに行くのは、この私なんだから』

 何言っているの? 
 そんな勝手な事させないんだから

『ウフッ。
 精々強がっていなさい。
 貴女が黒大使様と再度口付けを交わされた時、私の全てが始まるのよ』

 再度?
 それじゃやっぱりあの時のは──

彼女が言葉を一つ放つ毎に、黒い薔薇の花で繋がれた鎖のようなものが手に身体に巻かれていく。

 陽菜は私と貴女の違いに気が付いてくれるんだから。

『さぁどうかしらね。
 ほら、ご覧なさい。
 何処からどう見たって貴女と変わりないでしょう?』

悔しいけど、同じ顔をしている以上違う人に見られることは99%無いのかな?

タンスの中から舞う浴衣は、美郷に吸い寄せられるように布が巻き付いていく。
代わりに私の身体には箱の中から──

 嫌……

意志とは反してスルリと着付けられていく。

声を出すことも許されないようだ。

『さぁ参りましょうか』

 行……かない

『強情ね。
 貴女の魂が私には必要なのよ』

強く縛られた黒い鎖のせいか、自由も意志も全てが無にされる。