闇が消え、元の自分の部屋。

クリーム色の壁紙が眩しいくらい目に飛び込んでくる。

無意識のうちに陽菜の手を握っていたようで、彼女も汗ばんだ手で握り返してくれている。

「千郷、顔色悪いよ?」

瞳をまん丸にして覗き込んでくるのは、陽菜。

「あっ、うん。大丈夫」

私は、彼女の温かな手をそっと離した。

「そう?
 なら帰るね」

本当はずっといて欲しい。
だけど、明日は学校あるものね?

「うん。ありがとう」

今のは夢? 
それとも現実?

わからない。
ただ、時計の針はさっき目が覚めた時から5分しか進んでいない。

「陽菜」

「なぁに?」

彼女はドアノブに手をかけながら振り返った。

「もし……、
 もし私がいなくなっても忘れないでね?」

「ちょっと~、今から深樹海に行くような言い方しないでよ!!」

「ごめん。
 さっき変な夢見てね」

そうよ。
夢なんだから。
しっかりしなさい!!

「大丈夫よ♪
 千郷には、無敵の陽菜様が付いているわ☆
 そんな夢追い払ってあげる」

「ありがとう」

自分で『様』をつける彼女が、今だけは頼もしく見える。