「―――麻佐君に、似てる」


真顔で言い切った。そのおかげでこっちは声も出なかった。呼吸も止まるかと思った。殺す気ですかこの野郎。

急に、きゃーきゃー言ってたひとが黙ったもんだから、部屋はしんと静かになった。沈黙。テレビから聞こえるサッカー中継の音だけが耳に響く。

その張りつめた空気に耐えられるはずがない私は、自らそれを蹴破った。


「あ、あああ…あさ?」

「うん」

「麻佐って、麻佐?」

「うん」

「弱肉強食の世界を創り出そうとしてるとんでもない奴で実は超腹黒くて性格めっさー悪くてなんか外見的に危なくて、むっちゃくちゃ煩い、麻佐?」

「そこまで詳しくは知らないけど、きっとそれ」


ぎゃははと笑って言う貴ちゃんは、まだまだ甘い方だと思ってしまった。

そうだ。麻佐に比べたら。

そんなの天と地どころか、天国と地獄くらい差がある。それはもちろん、貴ちゃんは前者の方だ。


「確か麻佐君もサッカーすきだよね」

「麻佐の事なんか知らない…!」

「オラ私の質問に答えないのか」

「それは本当すみません」


出た。般若貴子。これからそう呼んでやるくそう。

貴ちゃんには当分適わないと、思い知らされた今日この頃。うん。やっぱりね。刃向かおうとした私が馬鹿だったんだね。

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