膝の上に広げられた手紙。
つつ、とそっと文字の羅列を撫でていく。
行にそって書かれた文字は男性のものには見えないぐらい整ったものだ。
見てるだけで清々しくなれるような彼の文字が大好きだった。
でも、今は見るだけで哀しみは募るばかり。
「馬鹿…ね、…」
そう罵ってみるも、寝室に響くだけで遠くの彼には到底届きそうになかった。ぽつりぽつりと浮かび上がっては、消えていく思い出。夫婦二人で寝たこの寝室には思い出が詰まり過ぎだ。
嗚呼、本当にあなたは馬鹿な人…。
目尻に浮かび上がる涙が零れてこぬように指ですくった。いつもなら彼がしてくれた動作。でも、今はもういない。
「何処まで、あなたはお人好しなのよ…馬鹿」
もう指では拭えないほどの涙が零れ落ちてぽたりぽたりと洋服に染みを作る。黒い喪服が更に黒くなったように感じられる。
もう一度読み替えして、今度は心から泣き崩れた。そのせいで手紙はぐしゃぐしゃになったがそんなこと気にしてられない。
あなたは、もう私のもとには現れてくれないのだから。
私はあなたが全てだったのに…っ。
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