透明感のある綺麗な声。


後ろからふわりと香水のいい匂いが鼻をくすぐる。



「おはようございます、理事長」



後ろを振り向くとそこには理事長が笑顔で立っていた。



「おはよう、花ちゃん。」

「おはようございます、さくらさ・・理事長」

綺麗な顔立ちに

肩までの栗色の髪がとても似合っている理事長は


あたし達家族にとって親戚のような関係で


さくらさんはひいおじい様が亡くなる瞬間まで


ずっと傍についていた人らしい。



パパとママから聞いた話だけど。


さくらさんはひいおじい様の事を最後まで愛していた人だった。



静かに息を引き取るまで


ずっとひいおじい様の手を握りながら話しかけていた。






愛する人が亡くなった時


どれくらい深い悲しみに陥るのか

あたしは経験したことがない。


ひいおじい様が亡くなった時も

あたしはまだ小さかったから。


きっと悲しいなんてものじゃなかったに違いない。


だけどさくらさんは

今も左の手に輝く指輪をして

幸せそうな笑顔を見せる。


愛する人からもらった贈り物を
はめて嬉しそうにする姿は


まるで少女のよう。



「今日からご両親いないけど、大丈夫?」