「じゃぁ、早速。

これ、おまえに渡しておく。」

俺はあのケータイのスペアを安藤に渡した。

この時のためにとっておいたものだ。

「何に使うの?」

安藤はキョトンとした。

「これさえあれば、おまえも俺と同じように、
何でも願いが叶う。

いや、『何でも』ってわけでもないか。

無理なものもあるけど。」

俺は安藤の目をしっかり見ながら言った。

『こいつ、案外いい奴じゃん』……
そんなことを思いながら。

「あたしがっ?

あたしも藤野みたいに……?」

そう。

そのとおり。

「人間のおまえの方が俺より理性がある。

俺が本能に従って間違ったことをしようとした時はひっぱたいてでも元に戻してくれ。

いいな?」

ケータイを渡したからにはきちんと約束をしなければ。

「はい!」

安藤の返事はすばらしかった。

よし、こいつなら信用できる。(いくら『何でもできる』っつったって、人の気持ちを読み取ることはできないから、こういう時は人間と同じように相手の態度で判断するしかない。)

「んじゃ、このケータイの使い方なんだけど、
んな難しいもんじゃない。

願いをメールで打つか、
電話で言うか、
すればいいだけだ。

宛先とか発信先とかは入れる必要はない。

……とりあえず何かやってみ。」

「うん。」

安藤は俺に言われたとおりにケータイを開いた。