「着いたぞ。」
そこは、大きなグラウンドだった。
誰かが忘れたサッカーボールが寂しそうにグラウンドの真ん中に転がっている。
誰の為なのか、ライトがついたまま。
古びたベンチに子供たちの忘れ物らしきタオルが置いてある。
スパイクの跡が残る。
「ここな・・・昔、よく来たんだ。部活終わってからよくここで投げてたんだ。」
そう言って、鞄の中からボールとグローブを取り出した。
大事そうに寝室に飾られていたグローブだ。
『矢野隆介』って名前の入った歴史を感じるグローブ…
「お前、キャッチャーやってよ。」
隆介はニヤニヤと笑いながら、私の頭を撫でた。
「嘘だって…美亜…見てて。」
黒のダウンジャケットをベンチの上に脱ぎ捨てて、トレーナーの袖を捲る。
いつもに増して、鋭い目になる。