「もう、急にどっか行ったりすんな…」
そう言うと、隆介は背中に回していた手を私の首の後ろに移動させた。
私の頭は隆介のあごで固定されている。
本当は見上げたかった。
隆介の顔が見たかった。
こんなチャンス今までなかったもん。
こんなにも近くで隆介を感じられるなんて…
重低音の響く車の音が近付いてきて、隆介は腕の力を緩める。
同時に定食屋から客が数名出てきて、笑い声が近付いた。
何事もなかったかのように隆介は私から離れた。
「帰るぞ。」
そう言うと、一人で隆介の部屋の方向へ歩き出した。
まだ私のドキドキは治まらなくて、体が緊張で思うように動かなかった。
あのまま、あの車が近付いて来なかったら隆介は何を言ってくれた?
何をしてくれた?
…キス・・・の予感感じちゃったんだ。
私。
バカだよね…
好きだとも言われたことないのに。
振り向きもせずどんどん先を歩く隆介の背中にそっと囁く。
『大好き…』