隆介の体から隆介の部屋の香りがした。


ホッとするような香り。






あれ?




泣きすぎたせいで脳の回転が遅くなっていた私は、隆介に抱きしめられていることに気付いていなかった。



初めて…




隆介に男を感じた。




力強い腕で私の体をぎゅっと抱きしめてくれたんだ。



私の頭は隆介のあごの下の辺り。

隆介の声が頭の上から聞こえる。



「お前に俺の気持ちなんてわかんねーんだよ。」



抱きしめる腕の力は全く緩む様子もなく、私は身動きが取れなかった。


だけど、冷静に今自分の置かれてる状況を理解した私は、顔から火が出そうにドキドキした。



隆介に…


抱きしめられた。




今の隆介の発言も意味わかんないよ…



俺の気持ちわかんないって?


その言葉そのまま、あんたに言ってやりたいよ…



隆介に私の気持ちなんてわかんない…って。




あんたが鈴子と電話してる姿を、私がどんな気持ちで見てるか…知ってる?


かわいい私のりゅーたんは…鈴子からもらったんでしょ?


どうして黙ってたの?



聞きたいことがいっぱいあった。


だけど、何か言葉を発すると・・・


今抱きしめられている隆介の腕の力が抜けそうだったから…




何も言わなかった。




だって…




こんな経験、もうないかもしれない。



隆介が私を抱きしめてくれるなんて・・・




だから、何も言わずただ、そのぬくもりを感じていたかったんだ。