「ゆうちゃんかぁ…なんて名前だっけな。もう顔も思い出せねぇよ。」


隆介は私の手を握りながら、窓の外に煙を吐いた。


やきもちを焼いてはいけないような透明で純粋な隆介の初恋。



「美亜、嫉妬してんの?」


隆介は、目だけ私の方に向けて、ニッと笑う。


私は顔をぶんぶんと横に振り、否定した。



「あいつがまだあの街にいれば…きっと、何か知ってんだろうけど。」



隆介はタバコの火を消し、窓を閉めた。


窓を閉める前に、ふと見上げた夜空。


隆介は、よく夜空を見上げる。


そのたびに、隆介への好きが倍になってくよ。



「ゆうちゃん?今、どこにいるんだろうね…」



「さぁな。何も覚えてねぇ。」



隆介は大きく息を吐いた。


前に吐いたはずの息が隣にいる私に届く。


少しだけ開いている窓の隙間からの風のせいだ。



タバコの匂いと


コーヒーの匂い。




大好きな隆介の匂い。




「美亜… ここに住む?」


隆介の口から出たセリフは、私の体を一気に硬直させた。



ドキドキ…



ドキドキドキ…




止まらないよ…