お父さんの声が好きだった。
お父さんのひざの上が好きだった。
お父さんの背中が好きだった。
お父さんの全てが大好きだった。
お父さんは、今…大きくなった私を見てどう思ってる?
素直じゃない美亜をかわいくないと思う?
お父さんとの思い出で一番印象に残ってるのは…
お父さんの自転車の後ろに乗って出かけたこと。
お父さんが
「しっかり掴まれよ」
と言うので、ぎゅっとお父さんにしがみついた。
お父さんは
「美亜は力が強いなぁ」
って笑った。
お父さんの背中に耳をくっつけながら喋った。
お父さんの声が響いて、すごく心地よかったことを覚えてるんだ。
2人で出掛けたことはあまりなかったから、その日の記憶はすごく鮮明に残ってる。
どこに行ったのかは覚えていない。
ただ、背中のあったかさを感じながら、
風を感じながら
お父さんといろんな話をした。
お父さんは大きくて強くて、何をしても美亜も守ってくれる人だった。
だから、美亜は信じられなかったんだ。
あんな強いお父さんが死んじゃうなんて…
動かなくなるなんて…
「美亜、美亜」ってもう呼んでくれないなんて…
だから、全部夢だと思った。
そう思わないと、美亜は怖くて目が開けられなかったから…