「もういいから…帰ってくれ。こんなとこにいていいのか?健太の気持ち考えたことあんのか?」


隆介は、低いため息まじりの声を出す。


靴を脱いだ隆介は、そのままソファに寝転んだ。


私は、鈴子の持ってきた箱に静かにハムスターを入れ、鈴子の涙を拭いた。


もう彼女ぶることも出来ず、『ごめんね』すら言えなかった。

鈴子の髪の乱れを直し、一緒に部屋を出た。



「いいよ…一人で帰るから。」


鈴子は、鼻声でそう言った。


でも、フラフラ歩く鈴子をそのまま一人で帰すわけにも行かなくて…


「私が送るよ。」


私は、ふらつく鈴子の腕を持ちながら鈴子の家へ向かった。




鈴子は、何も話さなかった。


だから私も何も話さなかった。




夜空を見上げながら、お父さんに心の中で話しかけた。





ねぇ…


誰かが幸せになるためには

誰かが傷付くんだね…



お父さん、この気持ちなんだろう…



よくわかんないんだ…



健太も隆介もどっちも欲しいなんて言う鈴子を…

憎いはずの鈴子を、

なぜか かわいそうに思ってしまう。



どうしてだろう…


隆介が鈴子に優しくする姿にいつも嫉妬してきたのに、


隆介があんなにも冷たくすると…


とても鈴子がかわいそうになる。




もし、鈴子の立場だったら…


そう思うと、なぜか泣けてきた。




私は恋をして


相手の気持ちを考えられるようになったのかな…




幸せを手に入れて、


私は、少し大きな人間になれたのかな…