だんだん近付く隆介の実家。
きっと、変わってしまってる近所の家…
初恋の人の家ももう建て替えられて、きっと違う人が住んでるんだ。
「あ…親父、俺のジャージ勝手に着てる…」
隆介が指差した先は、ベランダ。
ベランダに気持ち良さそうに揺れる黒いジャージ。
「あれ、俺の高校のときの…」
そこまで言うと、隆介は表札の字を見た。
表札の『隆介』の文字を人差し指でなぞる。
「隆介、挨拶しようよ!」
隆介の人差し指を、インターホンのチャイムの方向へ移動させる。
「え~、やだよ~!」
その声と顔が子供みたいですごくかわいかった。
隆介はチャイムを鳴らした。
…ピンポーン!!
なかなか返事がなかった。
隆介は高校を卒業してから一度も家に帰っていなかった。
野球を辞めてからの隆介はバイトと勉強ばかりした。
そのおかげでお金も貯まり、大学へも行けた。
隆介は大人だと思った。
自立していて、自分の道を自分で切り開くんだ。
玄関から物音が聞こえた。