駅からすぐの商店街の端に、隆介の実家を見つけた。
『矢野』と書かれた表札に手書きでお父さんの名前と隆介の名前が書かれていた。
今はそこには、隆介のお父さんと再婚相手の人が住んでいるらしい。
辺りをうろうろとしているうちに、私自身も自分の過去を思い出してた。
商店街で1つ50円のコロッケを買うのが楽しみだったこと。
お母さんに頼まれて商店街のお豆腐屋さんにおつかいに行ったこと。
『絹ごし豆腐』をいつも覚えられなくて、
『さらさらした豆腐』って言ってたっけ。
商店街から家までの道のりで、一番の難関は…大きなシェパードの家。
庭に放し飼いにされているシェパードは、柵を乗り越えそうに大きくて、いつも大きな声で吠えていた。
懐かしい。
子供の頃の思い出って誰もが宝物だと思う。
誰にもわかってもらえなくても自分にとっては、とても輝いた日々。
そんな思い出のたくさん詰まったこの街。
隆介の思い出の街。
隆介がいつか話してくれた初恋の相手の家は、隆介の家の隣の隣だと言ってたっけ。
そこは、建て替えて新築の家が建っていた。
私は…結局、何の手掛かりも掴めないまま家に帰った。
何しに行ったのか自分でもよくわからなかった。
誰に話を聞くわけでもなく…
ただ、隆介の育った街を見ただけ。
だけど、ますます隆介が好きになった。