何も知らなかった少女の頃、もっと積極的に恋ができたのは…恋愛の怖さを知らなかったから。
告白して断られたときのショックも知らないし、別れの切なさも知らなかったから。
人は歳を重ねれば重ねるほど、恋をすればするほど…どんどん不器用になるのかも知れない。
聖子さんを見ていると、そんなことを考えた。
「弘人も同じ気持ちだと思います!!頑張って!聖子さんには大事なお子さんもいる。私だっている。もし、悲しい結果になっても…一人じゃないですから!」
私が何を言っても聖子さんの不安が消えるわけではないことはわかってた。
でも今、不安でいっぱいの顔をする聖子さんをどうしても元気付けてあげたかった。
本当なら、ここに弘人を連れてきて…聖子さんを抱き締めてもらいたかった。
誰も代わりにはなれない。
誰も聖子さんの不安を取り除くことはできない。
私が隆介じゃないとだめなように、聖子さんも弘人じゃないとだめなんだ。
男の人もこの気持ちってわかるのかな?
弘人も思ってるかな…
聖子じゃないとだめだって。
それを願いながら、私は聖子さんの手を握った。
いつか、隆介に思って欲しい。
『美亜じゃないとだめ』って。
その為に、自分に何ができるのか、よくわからない。
私が隆介を好きでただ追いかけてた頃とはもう違うんだ。
隆介も私を見てくれてる。
だから、ただ好きだけじゃだめ。
隆介の為に何かしたいよ。
隆介の心の傷を全部消してあげるには、どうすればいい?
隆介が私にくれる幸せに対して、私が隆介にあげる幸せは少なすぎるって思う。
隆介、私は隆介を幸せにしてあげたいって心から思うよ。