うーその笑い。


パパがママに、意地悪するときの顔にそっくり。


まさかその顔が、私に向けられるなんて思わなかったよ。


「別になんでもないって言ったろ?」


そう言うと愛人は、本に目を戻してしまった。


「もう、大丈夫なの?」


「大丈夫もなにも、なんともないし」


ペラっと本をめくる音が、静かに響いた。


それから会話が続かない。


今日の愛人は顔色もいいし、どこか身体の具合が悪いとも思えない。


やっぱり、なんでもなかったのかな?


私の思い過ごし?


しばらく続いた沈黙を破ったのは、部屋のドアをノックする音だった。


「どうぞ」


愛人がやっぱり面倒臭そうに答える。