「な、なに言ってるのっ!?私には…っ!」

「うん、知ってる」


まだ全部言って無いんですけどっ!?

言い終わる前に返事をしてきた千佳君。

その時の彼の言葉が、何故だか少しだけ胸を強くつついた。


―なんで?


「知ってて、言ってる」

「…え、うん」


真剣そうな、悲しそうな千佳君の瞳。

その視線に私の中の何かがとても小さく音を立てた。


「ま、せいぜい由貴と仲良くな」


いつもの表情。

そこにさっきまでの瞳の色は微塵もなくて。

あるのは、いつも目にしてきた"彼"しか存在していなくて。


―ガラッ

ドアを開ける音に顔を上げると、千佳君が廊下へと姿を消している最中だった。


「じゃあ、また後でな」

「う、ん…」


いつもの笑顔を、どうしてか直視したくなかった。