5時間目の授業が終盤に差し掛かった頃、千佳は心音の高鳴りを感じた。


(なんか、)


ドクドクと煩い音が今の自分を素直に表している。

半分ほど開けた窓から風が吹く。

弱々しい少し生温いそれに、自分の視線を根刮ぎ奪った彼女の髪が揺れた。


伏し目がちの瞳を縁取る平均値よりも長い睫毛が影を作る。

左手の指先で覆われた口元から覗く唇が、白と相まって桜色が赤い。


眠いのだろう何度も瞼を閉じ、それからゆっくりと持ち上げる動作を繰り返していた。


いつも違和感のある笑顔を撒き散らす和泉。

好きになったはずの周囲をくすませた表情は今は無い。


(…相変わらず自虐的)


見つめる先にあるのが何なのか、千佳は知らない。

けれど恐らくそこに居るのは和泉にとって切ないもの。

そうでなければ刹那に混じった寂寥を説明出来ないから。


「…好きだよ」


誰にも届かない声。

隣にも聞こえなければ、和泉に届くわけもない。


それでも、


(和泉が、好きだよ)


届かなくていいから、知っていて。