『由貴』

「…。」


電話から聞こえる杏奈の声。

僅かに震えて、しかしはっきりと耳に届く。


「なに?」

『不破さんは、』

「杏奈に関係無いだろ」


続く言葉の先は容易に想像できた。

本当は酒井にも言われた。


"背中押しといてなんだけど、イズミさんは無理だよ"


『でもっ』

「俺は、まだ好きだから」


強く責められないのは、どうしてか。

杏奈が原因で別れたはずなのに強く責められない自分。


酒井の言葉が、木霊する。


"だって、今は整理出来てないだけで、本当は――"


「だから、和泉に言われるまで諦めない」


言い終わって直ぐ、電話を切る。

諦められない、自分。

望みを捨てきれないのは、自分がまだ和泉を想っている証拠で。


「本当、は…」