「俺は何回泣いてもいいと思う」


体を少し離され真っ直ぐに見つめられる。

優しさを孕んだ瞳と視線が絡む。


「…で、も」

「ん?」

「っ」


反論は無かった。

先を促す声は、止まったばかりの涙を再び引き出す。

鼻の奥がつんとした。


「迷惑が、掛かるからっ」

「…。」


本当に?

だったらどうして、千佳君はずっと傍に居てくれるの。

微笑んでいてくれるの。


ワイシャツを掴んだままの手に、力が籠もる。


「…泣き、たい」

「いいよ。思いのままに」


言い終わって直ぐ、体を抱く暖かな体温。

夏の暑さなど全て無視した抱擁。


離れたくない、離れられない、だって。


「俺以外、誰もいないから」


――だって。