電話の相手は誰だったのか。

ふと抱いた疑問に答えるように、図書室のドアが開いた。


「あっ…」


まだ決まっていないのに、確信があった。

紀紗が呼んだのは。


「何してるの」

「千佳君…」


おそらくきっと、千佳君で、それで。

疑う余地も無い自分の思考が苦く感じた。

普通なら電話の相手は、紀紗に用事があるだろうに、なのに何故。


何故。


「千佳君は?」


何故、自分に用があると思うのか。


「俺?」


あってほしいと、切に思うのか。

願望に浸食される思考は、正常から逸れていく。

にっこりと千佳君がいつものように意地悪そうに笑った。


「和泉に、用事」


甘いマスクに意地悪な笑み。

それでも囁く声は、どろどろに甘ったるい。