―ギィ…
少しばかり痛々しい音をあげて、屋上のドアが開く。
広がる空は深く薄暗く、けれども下からの灯火のおかげかほんのりと明るい。
ふらついた足取りで、安全に寄りかかれる所を目指す。
「えっ…」
「い、ずみ…」
しかし、ぴたりと止まる歩みはぐるりと踵を返してドアへと急ぐ。
そのスピードは歩いているとは決して言えない。
「っ、待て、和泉っ!」
後ろから掛かる制止の声を無視して階段、廊下を全力で走る。
途中、一階のどこかの空き教室に入り込み窓から外へと逃走を図る。
追いつかれたくない。
話したく、ない。
全力で学校内を走り続ける。
「はぁっ、はっ」
「和泉っ!」
「っ、」
すれ違う生徒、教師、一瞬驚いた顔をしてくすりと笑ったり、そのまま驚いて呆け続けたり。
それを気にしていられるほどの余裕は今はなくて、あぁ、浴衣が煩わしい、けれども走る速度は落とさない。
足が、痛い。
「和泉っ」
「わっ」
―ぐっ
突然消えたスピードに体はついて行けず、体勢を崩して転びそうになる。
しっかりと腕を掴まれていたために、転ぶことこそ無かったけれど。
「和泉…」
「っ、」
耳につく息と、声が鮮明で、何故だか無性に泣きたくなった。