その笑顔が、好きなんだ。


周りには人が沢山いて、それなのにどうゆうわけか自分は一人浮ついているような気がした。

実際、浮ついている。

いつもは浮き彫りにならないその事実も、彼女、和泉がいないだけでこんなにも形を為して襲いかかる。

騒がしい外野。

耳を傾けるなんて真似しても、和泉はいない。


「あれ、千佳じゃん」

「…。……酒井」


中学からの友達、酒井祐志。

おちゃらけた雰囲気を醸し出すも、何処か大人びていて冷めた此奴は由貴とも仲が良い。


「やだぁ、俺のことは祐クンってよんでってばぁ」

「死ネ、滅びろ今すぐ」


語尾にハート付きの一言、しかしウザイ。

思いの外苛立っているけれど、そんなこと気にしていられないとばかりにその場から離れる。

後ろから付いてくる足音。


「もしかして、由貴の元カノ?」

「は?」

「あらま、千佳も好きなの。なんで、どうして好きなわけ」


祐志の一言に、浮かんだ昔はしかし、今の彼女と正反対にあどけなく笑うから。

思わず言葉に窮したのは、どうしてか。


「放っておけない、目が離せない。心配になるんだ、アイツが笑うたび」

「?笑うのはいけないことじゃないだろ」


違う、そうじゃなくて、アイツは。反論したくなったのは、あの笑顔を見たせいだと言い切れる。

今とだいぶ違う笑い方は、今の彼女を顕著に表していて、あぁ、くそ、アイツは頭は良いけど馬鹿なんだったか。昔の様な笑みは見れそうにない。


「俺のエゴ。でも、だから俺が好きな笑顔が見たいんだよ」