ずんずんと先を行く千佳君。

その後ろ姿は怒っているように見えて、どうすればいいのか全く見当付かない。

私が勝手にいなくなった。

だから、怒られて当然なのだけれど、その後ろ姿は怖い。

純粋に恐怖を覚える。


「千佳君…」

「…由貴は、今日誰とも回ってないらしいよ」

「え?」


いつものようなトーンで話す千佳君の意図がわからない。此方を見ない千佳君の表情は今どうなっているんだろう。

しかし、何故今、由貴君の話になるのか。

今まで散々避けてきた話題。勿論意識的に避けていたし、千佳君も紀紗もそれに何故か合わせてくれていた。理由は優しいから、以外にないけれど。


「由貴、会いたがってると思うぜ」

「………そ、う」

「杏奈のことも、きっぱり振ったらしいからな」


知りたくもない事を、千佳君は話し続ける。やめて。制止をかけたいけれど、どういうわけか声は喉にへばり付いて離れない。

暑いはずなのに、何故がすーっと身体は冷えていくようだった。

自分の手が、冷たい。


「由貴に会わないのか?」

「…っ」


自分の手が冷たい。千佳君の手が熱い。

熱く感じるほどに暖かい千佳君の掌は、どこまでも言葉の温度と反している。


―なんでそんなに冷たいの。