息を切らして、一筋汗を流して、肩で息をして。

ねぇ、それは一体誰のためなの?



振り向いた先にいた千佳君の姿を視界に捕らえてどうしようかと迷った。

なんて言葉を掛けたらいいのかわからない。

それでも、何も思い付かないままゆっくりと千佳君に歩み寄る。


「どう、したの?」


触れようと手を伸ばすも、触れる直前で逆に千佳君に手首をがっちり掴まれる。

安堵した色を浮かべる双眸と目が合い、視線が絡まる。


「…。…行くぞ」

「え、あの」


ぐいっと引っ張られて、歩き出す。

慌てて止めようにも、力負けしてそのまま数学準備室の出口に近付いていく。


―まだ答え聞いてないのにっ!

突破口を塞がれそうになる。

さすがにそれはまずいと思っても、千佳君を止められそうにない。


「ち、千佳君っ」

「皆待ってる」


前だけを向いて歩く千佳君に不安が募る。

怒らしたのだろうか。

でも、何で、どうして、私何かしたの?

疑問は声になることなく、自分の中だけで飛び交う。


「サヨナラ、センセー」


くるりと振り返って、棒読みの一言。

取り敢えず覚えていたから一応言った感がありありと滲む挨拶を口にして千佳君はまた足を進める。

大月先生からの返事は無かった。