視線を彷徨わす。

しかし、いつも見慣れた姿がどこにもいない。


「…。」


どこにいるのか気になったが、今はどうにも出来ない。

誰だって一人になりたい時だってあるし、放っておいて構ってほしくない時はある。

それに昨日の今日だ。

由貴に会いに行くような自殺行為、さずがの自虐癖のある彼女でもしないだろ。


「あ、松里君っ!」

「なに朝倉」


まるで探していたんだとでも言うような雰囲気で名前を呼ばれる。

他の人の邪魔にならないように気を付けながら小走りで駆け寄ってくる。


「あのね、数学準備室に和泉がいるの」


はぁ、と此処に来るまでにも走っていたのか朝倉は肩で息をしながら話す。

素直に取り上げられた人物の名前に反応する。


「だから、行ってあげて?」

「なんで俺が?」


素朴な疑問をぶつける。

朝倉は和泉達が付き合っていたのは勿論知っているが、別れたのはまだ広まっていない。

どちらも何も言わないから関わった人間だけが知っている。

だから、朝倉も知らないはずだ。


「なんでって?」

「普通、由貴に言わない?」


まぁどうせアイツは行けないけど。

和泉に会いたくても、昨日のがあるせいで思うようには行動出来ないだろう。


「あははっ、おかしな事言うね。元彼呼んでどうするの?」


若干、黒さが滲む。

なのにいつものようにふわふわとした笑顔を保っているのだから驚きだ。


「想ってない人よりも、想ってる人の方が慰められるよ」


不意に大人びた朝倉は目敏くて。

驚くよりも先に、体が動いて走り出した。