「…。…今、誰に会いたい?」
「誰に、も…会いた、くな、いです…っ」
先程とは打って変わって、いつもの声で問うてくる大月先生。
そこには彼なりの優しさが垣間見えたような気がした。
それでも、私は返せない。
優しさを、返せない。
「なら、落ち着くまで居ればいい」
「っ、…ぅっ」
嗚咽が続く。
すぐに終わってくれるとばかり思っていたそれはなかなか終わらず、かなりの間私はすすり泣いた。
「青春だな」
「オヤジ臭いです、っ…先生」
先程よりもかなり落ち着いてきた。
話すときも、特に突っ掛かったりしないで話せる。
「なんとでも。実際俺はオヤジだし」
「その見てくれで…?」
オヤジだと言う割には、若く見える。
二十歳を過ぎているのはわかるが、三十歳そこらには到底見えない。
それに教師をやっていると知っているからそう見えるだけで、知らなければ大学生にしか見えない。
「文句を言える程度には元気になったか」
「スミマセンね、捻くれてて」
性格が捻くれているのは自分でも理解している。
それが災いして、よく呆れられるのだ。
直さなくては、と思うのに一向にこの捻くれが直る気配は無い。
「そうだな。…お前を見てると、全く似ていないのに思い出す」
今までで、きっと初めて聞いた声。
その声に僅かに流れていた涙も一気に引っ込んだ。
耳に届いた声は、切なくて、泣きたくなるほど甘い。
それは明らかに愛しい人に向けられたもの。
甘く感じるはずの声が苦く感じるのはどうしてだろう。