「大人だねー」


小馬鹿にしような声にむっとする。

しかし、そこには意地の悪い笑みを浮かべた大月先生ではなく、無表情の大月遥がいた。

剥がれ落ちて剥き出しになった無表情にぞっとした。


感情の伴わない双眸に、殺意にも似たような視線を送られる。


「なにか文句ありますか」

「なぁ、お前自分大嫌いだろ」


表情はそのまま。

言葉を遮られて、至極退屈そうに問われる。

漆黒の目はやはり退屈そうで、それなのに嘘は許さないとでも言うような力強さと脅威をもってより深く色付く。


「…嫌い、大嫌いこんな自分。違うか?」

「っ、」


言い当てられて、悔しくなる。

わかってほしかった人には、微塵も気付いて貰えなかった自分を渦巻く感情。


「だって、っ」


声にした瞬間、涙腺が緩んで視界が滲む。

涙でぼやける視界は、徐々に緩んだ涙腺に逆らうことなく溢れる涙によって収まることを知ってはくれない。


「ほ、んとの…っ、一番、は…私じゃ、ないっ」


なんでこの人に言ってるんだ。

自分で自分を罵るも、やっぱり涙は止まらない。


「ち、か君は…、苦しくなる、ほど…優しい、の、に…っ」


私は何も返せない。

優しくしてくれるのに、私は何も出来ない。

私、じゃ、出来ない。


「~~~っ、なん、で…こんな、のば…っか」


苦しくて、悲しくて、流す涙に押し潰されて、しまいそう。