「和泉…と、千佳」

「…。なに、由貴」

「…。……。」


驚いたような声で呼ばれて振り向けば由貴君がそこに立っていた。

反射的に、繋いでいた手を解いた。


「準備は?」

「もう終わった。由貴は買い出しだな」

「あぁ」


どこか険悪な雰囲気を纏った会話がぶつりと終わる。

ギスギスした感じが、居心地を悪くしてくる。


どうしよう…。

考えを巡らしても、何も思いつかなくて下を向くしかできない。


「もう、用件終わり?」

「あぁ」

「じゃあ、行こう和泉」


背に手を回されて、先を促される。

それに従って、由貴君に背を向けて歩き出そうとするが、後ろから声を掛けられ歩み出そうとした足が止まる。


「和泉、俺は…」


千佳君も、私も何も言わない。

下を向いたまま、由貴君の話に耳を傾ける。


「俺は、今でも和泉が好きだ。だから、」

「千佳君、行こう」


続く言葉を遮って、千佳君の背を押す。

もう、これ以上この場に居たくない。


この場に居続けて、由貴君の言葉に舞い上がってしまいたくない。


「俺が一番好きなのは、和泉なんだっ!」


腕を掴まれる。

あの日のように、逃げられないように。


「和泉が大切なんだっ!」

「でもっ!」


由貴君の言葉に、大きく声を荒げて返事をする。

きっと睨み付けながら勢い良く振り向いた。


「それでも、由貴君は―――っ!」


ピタリと停止する自分の言葉。

今、私は何を言おうとしてたの?


ふっと、顔の筋肉の力が抜ける。


「帰る。ごめん、千佳君」

「いいよ。送ろうか」

「大丈夫だよ。ありがと」


下を向いて、背を向けて。

2人を見ることなく帰路を走る。


家に着いた頃には、息は完全に上がっていた。