「あのー、この手は一体…?」

「俺の手だよ。そんなのもわかんないの。暑さにやられた?」


そんな事、聞かなくてもわかってる。

だいたい私だってそんな幼稚園児でもわかるようなこと聞いてるんじゃないよっ!


「私が聞いたのは、なんで手が差し出されてるのかってことだよっ!」


きーっと、奇声をあげながら講義する。

いくら私だって、あんな馬鹿な質問しないからっ!

そう思って再び、きっと千佳君を睨み付ける。

しかし、千佳君は私の睨みをまた鼻で笑って、私の手を掴んで歩き出す。


「俺、そんな万能人間じゃないし」

「そんなの知ってるよ。って、私が聞いてるのはそうじゃなくて」

「もう転ばないように」


微笑まれて、呼吸が苦しくなる。

脈が、どくどくと波打って、頬に熱が再び集まり始める。


嬉しそうに微笑む千佳君は今まで見てきた中で一番綺麗で。


「あ、りがとう…」

「どーいたしまして」


手に届きそうなこの距離が余計に胸を締め付けた。