「和泉」


ふわっとした声で呼ばれて、振り向けば紀紗が少々気まずそうに立っていた。

嫌そうに、口を開く。


「華君、が…お話あるって」



××××××××××××××××


「すみません」


連れて来られたのは屋上。

空は綺麗な青空で、白々しいほどに清々しい。


「俺じゃあ、部長を説得出来なくて」


今日まで粘ったんですけど。苦々しい表情で悔しそうに呟く華君。

そんな華君を紀紗は戸惑いながら慰めようと近付く。


「…。…うーん」

「本当にすみませんっ!顧問も楽しそうにしてて」


本当に申し訳なさそうに謝罪してくれる華君。

深々とされる礼の姿勢はとても綺麗だった。


「…。……うーん、多分、大丈夫」


…多分。

本当に、多分。

大丈夫な自信など、全然ないくせに見栄を張って、大丈夫だと言う。


「何かあったら俺居るから」


淡々とした口調で言われる。

屋上の入口に、いつの間にか千佳君がいた。


いつからそこに、とか、どうしてそこに、とかそれよりも、何言ってるんだろうか。


「は?ちょ、」

「本当ですかっ!?良かったですっ!!」


私の声を遮って、華君が感激したような声を出す。

いやいやいや。

なに、感激してるの、君。


「松里君がいるなら安心だね」


にっこりと、紀紗にも微笑まれる。

その微笑みには、文句ないよね?と暗に含まれている。


若干黒い笑顔と、目映いほどに輝かしい笑顔に負けて、


「…う、うんっ」


引きつりながらも、そう答えた。