「杏奈、さん…は?」

「杏奈?…お前、知ってたのか?」


知っていた。

知っていたよ、ちゃんと。

杏奈さんが由貴君を好きで、好きで堪らないことぐらい。

だって、本人から直接言われたんだもの。


小さく頷く。

それを見た由貴君は、嘘だろと呟いた。


「杏奈は、…」


そこで言葉を句切る由貴君。

由貴君の視線は、私と目が合わないように彷徨っている。


ねぇ、由貴君。

私気が付いたの。


「杏奈は、振った」


"わかってるくせに"

大月先生の言葉が児玉する。


そう、私はわかってた。

由貴君の中の杏奈さんの存在の大きさに。


「そう…」

「だから、和泉…」


少しだけ、由貴君の腕を掴む力が強くなる。

自嘲気味の笑いしか出てこなかった。


わかってた。

わかっていた、だから。


「別れよう」


廊下に自分の声が、静かに重く響いた。