大月先生の言葉がぐるぐると頭の中を駆け巡って、離れない。


教室に鞄を取りに、のろのろと重い足取りで向かう。

大月先生によってもたらされた困惑は、思考回路を俊敏に動かす。


日が傾いている。

紅い色が、傷心を掻き立てる。


「和泉っ!」


後ろから掛けられた声に肩が震えた。

逃げたい衝動に突き動かされるように、その声を無視して全力で走った。


会っては駄目。

今、会ったら、絶対に――。


早い速度で変わる景色を気にすることなく、距離を広げようと懸命に走る。


「待て、和泉っ!」


待てるわけがない。

速度を保ち、必死に逃げる。


「っ、和泉っ!!」

「わっ」


ぐっと、腕を掴まれる。

駆けていた足が止まり、強い力に負け体が引っ張られる。


「な、んで…っ、逃げ、た…はっ」

「…っ、」


どちらも肩で息をしている。

やはりこれが男と女の差なのだろうか。

最初は十分にあった距離はいとも簡単に由貴君によって無くなっていた。


「答え、ろ…っ、和泉」


徐々に落ち着いてきた呼吸。

それでもまだ完全に落ち着いたわけではないのに、由貴君は問い掛けてくる。


会っては、いけない、のに。

会ったら絶対に、終わって、しまうのに。


腕を掴まれて、動けない。