「遅い」

「由貴君は…部活、でしょ」


素っ気ない単語に少しむっとして、素っ気なく返してみる。

彼が少しでも、焦ってくれるだなんて馬鹿げた事を期待しながら。


「今日は休み。だから帰るんだろ」


私の素っ気ない返しを気にする事無くあっさりと返してくる由貴君。

いつもの笑顔が、少しだけ意地悪く浮かぶ。


「あー、由貴だっ!今帰り?」


廊下に出て直ぐに声を掛けられる。

声の元を辿れば、其処に居たのは由貴君と千佳君の幼馴染みである久野杏奈さんだった。


「おー杏奈。そうだよ、今から"彼女"と仲良く下校」


彼女の部分を強調する由貴君。

強調された言葉に思わず頬が熱くなる。


―か、彼女…っ!


「…っ……そっかぁ」

「おー」


一瞬、ほんの一瞬。

彼女の、杏奈さんの表情が翳った。