「お願いしますっ!」

「えーっと…」


目の前で頭を下げながらお願いをしてくる下級生。

入学当初、格好いいと噂されていた生徒だ。


名前は、確か…。


「あれ、華君?」


私が名前を思い出そうとしていたとき、後ろから声がした。

その声に、彼の名前を思い出す。


あー、そうだ。

この人、華楓君だ。


「あ、紀紗先輩。こんにちは」


ふわりと軽い独特の声の持ち主は朝倉紀紗だった。

外見のイメージを見事なまでに壊してくれるほど、彼女は自由奔放でどこかぬけている。


「わー、珍しー。どーしたの?」


駆け寄ってくる紀紗ちゃんに、下級生、華君の表情が綻んでいくのがわかる。


あぁ、紀紗が好きなのか。

その光景を眺めながら、ぼんやりと思う。


「不破先輩にお願いをしにきたんです」

「お願い?和泉に?」


こてんと首を傾げる紀紗。

そんな紀紗にはい。と凛とした声で華君は返事をする。

返事をした後、こちらにくるりと振り向く華君。


「剣道部に、入部してください」


熱心な目でお願いをされる。

紀紗も、状況をよく飲み込めていないなりに、この様子を見守っている。


……。


「え、っと…ごめんね?」