「いやー、感動だったっ!」

「私は寝ちゃったからなぁ…」


映画に釘付けだった由貴君はわからなかっただろうが、あそこまで考えついた後、見るのが億劫になって眠ってしまった。

気が付いたら、自分は起きていて、映画が終わっていたという状況だ。


「え、そうなのかっ!?もったいねー」

「私、あんまり映画得意じゃないみたい」


言えば、しゅんと落ち込む由貴君。

どうやら私が楽しめていないと思ったらしい。


「デートは楽しいんだけど、映画は苦手なの。…ごめんね」

「いや、和泉の事知れたからいいよ。前向きに考えないとっ!」


先程落ち込んでいたのが嘘のように、からりと元気よく答えてくれた由貴君。

その姿は、入学式の頃を思い出させた。


思い出すだけで、胸が締め付けられる。

あの日あの時、出会えていて良かったと思う。

出会っていなければきっと私は由貴君と一緒に居られなかったし、こんな、何かが満たされるような気持ちにはならなかった。


千佳君とも、友達になれなかっただろう。

彼は無愛想だ。

しかも気を許していない相手には徹底的に冷たいから、誤解されやすい。


「なんか今の、入学式の時みたいだった」

「和泉も思った?俺も思った」


一緒だなっ!照れるようにはにかんで笑う由貴君は、まだ明るい日差しを背にしているためかいつもより眩しく映る。

その姿に見惚れずにはいられない。


「今日は、テキトーにぶらついて帰ろうか」

「うん」


差し出された手を取る。

どこに行くかなど、特に決めてはいないけれどもわくわくと胸が弾んだ。